『夏への扉』ロバート・A・ハインライン

SF古典のお勉強。

あらすじ
1970年ごろのロサンゼルス。卓抜した才能をもつ技術者のダンは、親友と始めた会社で家事万能ロボットなどを作ってそれなりの成功を収めていた。しかし、親友と結婚を間近に控えた恋人の二人による裏切りのため、ダンは会社の成果をすべて奪われ、その上眠っている間に冷凍睡眠装置に入れられ西暦2000年の未来まで飛ばされてしまうのだった。

感想

  • 時間遡行物のくせに気色悪いほど話が判りやすい。過去に戻って以降の展開は、感心のため息をつくことしきりだった。
    • もう病気みたいなもので、こういう展開を見るたびに荒木飛呂彦の運命論を連想してしまう。この話も結果だけを見ると、なんだかとてもインチキ臭く感じるが、その過程、つまり主人公に訪れた不幸や、数々の努力を見ていれば、これが当然の結果として受け止めることが出来る。そうあれかしと叫んで斬れば、世界はするりと片付き申す。
  • 「未来(または現在)に居た時に知らなかった出来事ならば、過去に戻って行動しても後々に何も影響は与えないはずだ」というタイムパラドックスに対する解答は非常に楽観的なスタイルだが、一番理にかなっている気がする。話の判りやすさもこのスタイルのおかげかな。そのうち、矛盾の結果ぐちゃぐちゃになるタイプのタイムトラベル物も読みたいが。
  • 主人公は万能で向上心に満ちたスーパーイケメンなのに、発想が完全に非モテなのが素晴らしい。「無茶苦茶美人な恋人と結婚しようと思ったけど、実はとんでもない悪女でだまされてすってんてんにされた。もう現実の女はいらん。純真無垢な少女と結婚したい」って。そして猫大好き。世が世なら完全にアウトな危険思想だけど、よくこんな精神構造の男から、「主婦の為の万能ロボットメイド」なんてものが生まれるもんだ。
  • お気に入りのシーンはピートとの再会。数ページ前で「あーあーあー。なるほど!」と気付いて、実際に再会シーンにたどり着いた時のニヤニヤ感はなかなかのものがあった。

ロバート・A・ハインラインを好きな作家に追加。次は、「月は無慈悲な夜の女王」か。いちいちタイトルが秀逸すぎる。

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))