大河ドラマ「平清盛」 第12話『宿命の再会』

(あらすじ)
当時の京では、僧たちが神輿を担ぎ出し朝廷への不満を訴える「強訴」と呼ばれる行為が盛んに行われており、平氏一門にとってはその仲裁・鎮圧もまた重要な職務の一つとなっていた。しかし、妻の明子の死を乗り越えられないでいる清盛は、その職務にも身が入らないでいた。
そんな清盛の下に、あしげく通う女性の姿があった。明子の生前の友人、時子である。時子は、幼くして母を亡くした清盛の息子たちを不憫に思い、何かと世話を焼いてくれており、息子たちも彼女にはよく懐いていた。それを見ていた家臣の盛国や時子の弟・時忠などが、清盛に時子を後添えとするよう薦めるのだが、清盛の中で未だ明子の影は拭い難く、時子を迎えることを固辞する。
一方朝廷では、待賢門院璋子が病で床に伏し、危篤状態になりつつあった。彼女の様子を見て動揺した鳥羽院は、全国の武士たちに水仙の花を探すよう命じる。あまりに馬鹿馬鹿しいその命令に、清盛はまともに役目を果たす気になれなかったが、家盛に諭されることで、ようやく重い腰を上げる。しかし既に水仙の季節は過ぎ、まだ咲いている花を見つけることは難事であり、方方探しまわるが見つけることは出来なかった。
その探索の道中で、清盛は東国より帰参した源義朝と再会する。懐かしい顔との再会に喜ぶ暇もなく、義朝は持参していた花を清盛に見せる。東国で得た手勢を使って、陸奥の地で探させたという水仙の花であった。
義朝からの水仙を手に、鳥羽院は璋子との最期の逢瀬を果たす。死に際となってようやく璋子と心を通わすことが出来た鳥羽院は、義朝の功績を強く労い、今後も京にて忠勤に励むよう促す。
友の勇躍に敵愾心を燃やす清盛と、さらに高みを目指そうとする義朝。平氏、源氏、それぞれの一門を背負って立つ二人の戦いの幕が、ここに切って落とされるのだった。
その後、物凄く強引な流れで、義朝は京で帰りを待っていた由良を、清盛は時子を、それぞれ嫁に迎えて子を設けた。

(感想)
愛のSM夫婦漫才終幕

  • 初回からネットリと繰り広げられてきた鳥羽院と待賢門院璋子の、ノーガードでメンタルを削りあう壮絶なSM劇場。今回、璋子が死亡したことであえなく終了となった。超面白かったです本当にありがとうございました。
  • シグルイで「一瞬でも心の通い合った瞬間があったのなら、顛末がどうなろうとその人は幸福である」みたいなのがあったが、最後の最後でようやく愛を知った璋子さんと、璋子さんの心が自分で満たされていたことを知った鳥羽院は、傍で見ても幸せそうだったよね。終わり良ければ全て良しとは正にこのこと。

幸せそうな鳥羽院。「ほぼイキかけました
愚かさ2.0

  • 基本的にこの二人のエピソードを一言でまとめると、「愚か」以外の何物でも無くて、12話も掛けてさんざん描かれたどつき漫才は多くのキャラたちを怒り狂わせ、数多の視聴者を爆笑の渦に叩きこんでくれたわけです。
  • 愚かな行為というのは非合理的であるがゆえに多くの不利益を産むので、それに巻き込まれる人間は愚かさそのものに激怒することになる。鳥羽院は恐れ多くも上皇様であり、国政のトップにあらせられる御方なので、そんな奴が女房に入れ込みすぎたり死んだ義父の影に怯えまくってトンチキな命令を下したり、政を蔑ろにしたりすると、それに巻き込まれる人間も洒落にならない数に上るわけです。清盛然り、藤原頼長然り、崇徳帝然り、信西然り、義清然り、それと、まあ、得子然り。そして多くの民草然り。
    • 印象的に描かれているのは、義清の不始末の際に、一生懸命犯人探しをしたのに一蹴されて不問にされた藤原頼長とか。今回の水仙捜索を命じられる京勤めの武士一同とか。どちらも、本人たちから見たら「なんでやねん」と突っ込みたくなること必至なエピソード。
  • しかし視聴者からして見ると、この「愚か」が面白くてたまらないと言う不思議。普通、ドラマのキャラが頭の悪い行動をしていると、見ているこっちも腹が立ってくるものなんだけど、この鳥羽院と璋子については、その愚かさにまつわる話を丹念に丹念に描いたことで極上のエンターテイメントに仕立て上げられていたと思う。頼長や清盛から見たらただの暗君でも、その暗君と女房の業深いエピソードを我々視聴者は全部見ていた。鳥羽院が義清を見逃した理由も、水仙にまつわる経緯も、私たちは全部知っているわけです。本当、実に愚かだった。愛おしい愚かさだった。
  • 源氏や藤原摂関家、以後の後白河を筆頭とする朝廷勢力と違って、この鳥羽院周りの人間関係は主人公の清盛と何も関係性が無い、というのも彼らの特殊性だった気がする。清盛が泣いていようが喚いていようが、朝廷には一切関係がない。後々、全てが清盛を中心に回り始めるこのドラマの中で、この頃のまだどこにも影響力がない高平太な清盛には、完全に雲の上での出来事だったという。

その他

  • 「このような乱れた朝廷に仕えるような武士の家を、背負うて立つことの意義がわかりませぬ!」と、相変わらずの中二病を炸裂させている清盛を、その回のうちに「俺が平氏を背負う男じゃ!」とまで言わせるくらいに立ち直らせたのは、本心をさらけ出した弟・家盛でも、時子でもなく、ひとえに帰ってきていきなり手柄を立てたライバル・義朝への対抗心なのでした。という。どれだけ薄い本を厚くする気だ。
  • この二人がラストでいきなり、それぞれ嫁を娶ったエピソードすら、ライバルへの対抗心を理由にしてたからね。不憫なのはそんな感じで求婚された嫁のほうです。特に由良御前ちゃん。
    • 「お久しぶりでございます……!お変わりはありませんか?……と、父が」と、いつもの感じでラブコメしようとしてたのに、ワイルド義朝が「そうか。俺のことが好きなのか。よし、では床を敷くか」とグイグイ来るので、あっという間にツンデレキャラを封印されてしまう悲しさ。ツンデレと言うのは、「想い人が恋心に鈍感」と言う限定条件がないと発動すら出来ないレアなコンビネーション技なのだなあと痛感した。「ツンデレとは空回りの技術だ。相手の反応が薄く一切の抵抗を与えられない時、そのツンデレは無限の回転を描く」
  • 時忠の初登場シーンが、今見るとなんだか格好いい。床全面に算盤で八卦の陣を敷き、その中心で寝そべるドラ息子。平時忠というキャラクターを表現する上で、パーフェクトな演出であります。一発でろくでもない奴だと判る。

次回は祇園闘乱事件。伝説のエアアローに射たれてエア血が噴き出しておる鳥羽院の回。