『硝子のハンマー』貴志祐介

友人が貴志祐介にハマっていて、しきりに薦めてくるので去年『クリムゾンの迷宮』を買って読んだらそこそこ面白かった。ので、また買ってみたわけである。これも面白かったので、年一冊ペースで読む感じになりそう。


あらすじ
密室殺人です。
ホームズが泥棒です。
ワトソンが女の子です。
以上。




あらすじ
一見したつくりは、今時大丈夫なのかと不安になるくらいオーソドックスなものだけど、なかなかに真面目と言うか皮肉というか正義感が強い話だったので「うむぅ」と唸ってしまった。
以下ネタバレ。



二部構成で前半が事件編。後半が解答編、と言うか犯人の生い立ち編。第二部は犯人視点で描かれていて、いかにこの犯人が不幸な生い立ちだったか、いかにして殺人を実行するに至ったか、いかにして密室トリックを考案したかを実に執拗に描く。明らかに、犯人に感情移入させる目的で。
しかし、そういう過程を経た上で、最後の解決パートでは実に冷酷に、主人公の探偵・榎本に切って捨てられる。「殺人は最低だよねー」と言う理念のもと一切の酌量を与えず、犯人は逮捕されてしまう。そして、犯行にいたるまで200ページの分量で描かれた犯人の物語は、後日談すら与えられずに幕を閉じる、という。
呆気に取られたような、首筋に水を引っ掛けられたような読後感。どんなに巧緻でも、犯罪は犯罪でしかないと言うような、作者の思想的な物を感じ取ってしまうのは浅はかな発想かもしれないが、基本的にミステリーはエンターテイメントであるとして慣れ親しんできたものとしては、メッセージ性のようなものを持っていた本作はなんとなく新鮮だった。


逆に事件編の方は、ミスリードを誘いまくるように罠がいっぱい敷かれていて、あまりいい印象は無い。伏線のための描写じゃなくて引っかけのための描写ばかりだから、不毛な物を覚えたのかも知れない。
一方、泥棒ホームズ・榎本と弁護士ワトソン・青砥の夫婦漫才みたいな掛け合いは面白かった。仲いいなこいつら!的な。元泥棒の経験を生かした榎本の防犯知識は、単純に薀蓄として面白かったし、施錠や監視カメラなどの防犯技術の切り口から密室を暴こうとする、と言うのもなかなか面白い試みだったと思う。このコンビの作品はまだあるそうなので、そっち中心で読んでいこうかと思う。友人曰く、『新世界より』も面白いらしいけど。

硝子のハンマー (角川文庫)

硝子のハンマー (角川文庫)