『金春屋ゴメス』西條奈加

我らが荒山徹先生の小説にチラリと出てきた、ホセ・コンパルーヤ・ゴメスの元ネタ小説。読み終わって、何故あんな交通事故みたいなファックをされる羽目に陥らねばならなかったのかが未だに判らない。


あらすじ
近未来、人類が割と簡単に月で生活することが出来るようになった時代。北関東周辺を領土とする独立国家『江戸国』は、そんなハイテクな時代にあって尚、18〜19世紀における日本の暮らしを維持する、世界で最も変わった国であった。もちろん鎖国中。
幼い頃に江戸を出国し、以後普通の日本国民として生きてきた大学生・辰次郎は、偶然にも競争率300倍の江戸行きの切符を手にする。そして江戸最強の鬼奉行・金春屋ゴメスの元で、巷を騒がす奇病の解決に挑むのだった。


感想
SF。月で生活出来るくらいに進歩した人類なら、江戸で生活することだって簡単だよねー的な。
「とにかく、江戸の時代を再現するんだぜ!」と言うフロンティアなスピリットに溢れた開拓者たちの成果で、そこに住む2世、3世以降の人たちは、もうほぼ完全な『江戸人』になってしまっている。彼らが『テレビ?何それ』と言えるようになった時点で、この独立国家は完成したと言っていいのだろう。そういうSF。
そういう、江戸風土に生きる人々をおかしみと皮肉を加えて描いた話なのだけど、一番気に入ったところは、その江戸で主人公とか恩人とか友達とかが感傷に浸っているパート(泣きどころ)だった。魅力的な舞台設定をされている『江戸国』の面白さより、登場人物たち個人の話の方が感じ入った、と言うのが逆に惜しい。作者の人のSFスキルが、情緒描写スキルのレベルに一歩及んでないのかなあ、と言う印象。あと、話の展開の方も結構お約束感が強い上にすっきり感が薄いので、あまり評価できなかった。
とは言え登場人物たちが十二分に魅力的であるので、彼らが箱庭のような江戸内を走り回っているだけでとても楽しいのだけど。この舞台でいくらでも話は書けると思うので、是非続編が読みたいなあ。

あと、ゴメスさんは最初ラオウ大豪院邪鬼のイメージだったが、感想を書くに当たって改めて思い直してみると、むしろ「まんゆうき」に出てきた萬々仙人だった。あれくらい怖い。

金春屋ゴメス (新潮文庫)

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