『あなたの人生の物語』テッド・チャン

短編集。いいなあ、SFはいいなあ。
各話ごとにとりとめなく。ネタバレ含む。

  • バビロンの塔
    • 時代は古代バビロニアで、舞台も間違いなくユーラシア大陸のバビロン。でも、空の代わりに天井がある。地動説じゃなくて物凄くわかりやすい形で天動説の世界。天井の向こう側には何があるのかと、人々が築くバベルの塔の話。
    • ウソであるということを当然として、全く説明しないスタイル。この本のうち半分はこのスタイルだけど。
    • ちょっとファンタジー色が強くて、他の作品に比べると異彩を放っていた感。
  • 理解
    • 植物人間状態に陥っていた男が、とある薬の力で超人として目覚めていろいろする話。
    • 頭が良くなると、自分のやることに全く迷わなくなるんだなあと羨ましくなった。後半が漫画のような超能力バトルでちょっと笑う。
    • でも、最後のあの必殺技は超格好いい。あれはビジュアルでみたいなあ。understand.
  • ゼロで割る
    • 作者が数学大好きってことがよく判る話。
    • 自分が心から崇敬するものがあって、それにあまりにも深くのめりこんでしまったために、それの矛盾に気づいてしまって苦しむ、と言う。愛ゆえに人は苦しまねばならぬ。誠実だなあ。
  • あなたの人生の物語
    • 表題作。未知との遭遇と言うか、未知の概念との遭遇の話。一番好き。
    • 異星人とコンタクトを取る中で、主人公がその異星人の文化を学ぶことで地球人の到達できないものに変質していく。クライマックスで、思わず立ち上がりながら読んでしまった。凄い凄い。
    • ヘプタポットAとヘプタポットB。よくこんなの思いつくな。
    • まあ、有り体に言って、メイドインヘブン!これこそが私の求めたもの!・・・ではなかったかもしれないが、まあとにかく覚悟は絶望を吹き飛ばす!
    • と言うことで、「ウヒョー」となってうきうきしたんだけど、あまり言及している批評は無かった。何故?
  • 七十二文字
    • 刻んだ文字の力で動くゴーレムの研究に携わる人々の話。セックスの出来る可愛い女の子型ゴーレムが出来れば、もう三次元の肉女はいらないよね、と言う話でもある。
    • ファンタジーのSF。作者の人はなんでもいける器用な人なんだなあ。
    • 技術や設定の語り口が実に丁寧。これくらいすれば、魔法は高度に発達した技術と見分けがつかないわけだ。
  • 人類科学の進化
    • 一番短いのに、何故か読めなかった。頭悪くてすみません。
  • 地獄とは神の不在なり
    • 信仰の話。
    • どうしても多神教信者と言うか日本教信者の自分には、一神教の人の最も奥深いところの価値観を想像は出来ても、確実なる理解は出来ないのだが。お互い様だけど、この話が一般的なキリスト教圏の人にとってはごく当たり前の話なのかどうかは、興味を持つところだ。
  • 顔の美醜について――ドキュメンタリー
    • 人のルックスの良し悪しの判別を、曖昧にする装置、『カリー』にまつわる人々の考え方に焦点をあてたドキュメンタリー。ただしイケメンに限る、とは限らないんだぜことSFに至っては!恐れ入ったか!と言う話。
    • まず、SFなのでもちろん一つのウソ設定があって、それに対してその世界のごく一般的な人々にそのウソ設定についてどう思うかをインタビューすると言うスタイル。異世界の価値観を説明すると言う、とても優等生なSFだと思います。
    • カリー?ああ、欲しいさ。


宗教色の強い作品群だったかなあ、と言う印象が強い。信仰を持ちながら、神への挑戦をテーマに据えた作品が多かったかもしれない。なので、日本人的には、サムラァイ、ニンジャ!に憧れを抱く白人みたいな感覚で読んだ部分もある。
あとは、基本理系。なのに表題作ではそれに人情も加味しているので、本当器用な作家だなあと思った。また読みたい作者リストに追加。


あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)