『月の光』花村萬月

何か面白い物は無いかいな、と書店文庫本コーナーを物色して、なんとなく手にとって中を見て、最初に目に入ったのが以下の部分。

「明けの明星ってわたしにとっては馴染みがあるのよ」
「なぜ?」
「父と組手をして、ひと汗かく頃に、東の空に明けの明星が光るんだ」
 俺(主人公)は胸が痛んだ。俺の想像をはるかに超えて律子(ヒロイン)は、その全てを空手という武道に捧げて生きてきたのだ。
 まだ二十歳前なのだ。修学旅行にも行かずに修行に励み、ひたすら耐え抜いた挙句に破裂した。
 そう言えば師範(律子の父)がいつだったか言っていた。『律子にピアノを許したのは、突きの訓練になるからだ』と。そして律子はその烈しいタッチのせいでピアノの弦を切ったことがあるらしい。
 師範はそれを誇っていたのだが、律子は自らが鍵盤を叩いた挙句に切断されたピアノ線を眼にして何を思ったのだろう。


ここまで読んで、この小説が大層アホな小説であることが理解できたので、その場で購入。

読んでみたらやはり全般的に頭が悪いが、結構面白くてラストはそれなりに格好良いので、複雑な読後感を得た。しょうもないオチを期待してそれが裏切られたからと言って、非難するわけには行かない。