『一夢庵風流記』

わずか五年の執筆活動で鬼籍に入られた天才、隆慶一郎の代表作にして、90年代少年ジャンプの傑作漫画、『花の慶次 ―雲の彼方に―』の原作小説。


隆先生の作品は、読んでて体温が2度上昇するくらい面白いのだが、ただでさえ数が少ない。読めば読むほど残る作品の数が減っていくので、大事に大事に読んでいきたいと思う。とりあえず、『柳生非情剣』『影武者徳川家康』と読んで、これが三作目。


花の慶次連載当時はジャンプを読んでいなかったので、自分が前田慶次郎利益という人物を知ったのは『妖説太閤記』(山田風太郎)に登場した時になる。この時、ほんの2,3ページしか出番が無いのに恐ろしいほどの存在感と格好よさを見せていたので、かのリアリスト、山田風太郎がここまで傾倒するとはいかなる人物か、と気になっていた。


で、実際読んでみて、鬼のように格好いい。『男ならかくありたい』『こんな風に生きれたら』という美学を体言しまくる前田慶次に始終惚れっぱなし。出てくる登場人物も、皆慶次にベタ惚れ。敵も味方も。男も女も友も刺客も天下人も朝鮮人も。


やることなすこといちいちいちいちマッチョで爽やかで美しい。悪鬼羅刹の強さと独特の感覚を持った『いくさ人』でありながら、和歌や風流にたしなむ当代きっての『文化人』って、完璧超人過ぎる。格好良すぎるのに、ちっとも嫌味じゃないのが不思議。


男と男の心の交流に涙し、信念を貫く生き様に奮える、素晴らしい読書のひとときだった。


次はどれを読もう。『死ぬこととみつけたり』あたりか。


一夢庵風流記 (新潮文庫)

一夢庵風流記 (新潮文庫)