大河ドラマ「平清盛」 第8話『宋銭と内大臣』

あらすじ
父・忠盛の計らいで博多へとやってきた清盛は、市で行われていた宋との交易、特に宋銭を用いた貨幣による品物のやり取りに強い興味を抱く。
加えて以前忠盛が仕組んだという、平氏と宋の交易商との密貿易を知り、呆れながらも父の胆力と器量に感心するのであった。
博多で見聞きした交易や市の場に溢れる生命力は、清盛にまた、何か「面白き世」を作るためのヒントが得られるように感じさせるものだったが。

一方、東国へと旅立った源義朝鎌田正清の主従は武者修行に明け暮れ、清盛とは異なる意味で世を渡る力を身に付け始めていた。そんな義朝の現状を手紙から察した父・為義は息子の道中を案じるが、そこに熱田神宮の姫・由良が挨拶に訪れる。由良姫は尾張にて義朝に助けられたこと、京に上ってから内親王に仕える女御になったことを告げ、自分と縁を持つことは源氏の行く末に益となると持ちかけるのだった。

宮中では藤原摂関家の雄・藤原頼長内大臣への出世を果たし、乱れた宮中を法に基づく正しき政治の世に変えるべく躍進を始めていた。
頼長は殿上での清盛からの献上品や、幾つかの偶然を経て、平氏が院の名を騙って宋と密貿易を行なっている事実を突き止め、清盛を呼びつけ真相を糾明する。無事その場は切り抜けた清盛であったが、自分が目指す「面白き世」の前には、頼長のような強敵が立ち塞がっていること、また、そんな強敵と戦うにはまだ自分には力が不足していることを痛感するのだった。



感想
悪左府、顕現

  • 大河「平清盛」の大ボスその1、藤原頼長登場の回。麿眉、白塗り、お歯黒でもイケメン度が全く衰えない山本耕史の、悪左府大暴れ物語の始まりである。
  • あらすじ書いてて、あと23話まで見て振り返って思ったけど、この人悪いことほとんどしてないよね(家盛の件はともかく)。少なくとも岡田将生のナレーションでは、「乱れに乱れた朝廷を正すべく奔走する正義の政治家」だし。私心も無いわけではないけど(藤原家再興)、親兄弟に比べたらその辺の野望も低く、とにかく「正しい世」の信奉者。
  • 一方、今回に限って言えば平氏は密貿易で私腹を肥やし、自分の力を蓄え将来的に下克上に近いことを目指そうとしているクーデター集団なわけで。普通こっちが悪者なんだが。
  • この辺が今年の大河の面白いところ。こちらの側が正義で向こうの側が悪というわけでは無く、どちらも自分が「良い」と思う世界を作るために邁進している。まあ、世の中の大抵の戦いはそうなんだけど、そのそれぞれの「良い」を目指す事情をきっちり細かく描写して、視聴者の感情移入度についてほぼ互角の条件で両者を戦わせているということに関して、「平清盛」は図抜けていると思う。
  • 山本頼長はキャラクター性はこの登場回で完全に確立しているし、ボスとしての風格も十分。前半の平氏を苦しめる役どころとしては完璧だった。まあ、頼長自身は平氏よりも信西とかとの政争に敗れるわけなんだけども。

アグレッシブビースト源氏

  • 東国でやんちゃしている義朝&正清。すでに保元の乱まで見ている身には、死にそうな喧嘩しながら父親に「こっちでは皆に良くしてもらってるので、元気です!」とか手紙書いてる義朝と、その手紙読んで事情を察して心配する為義の構図はそれだけで泣ける。そうなんだよ。初期義朝はとても父想いの子だったんだよ。何故途中でああなった。野生を高めすぎたんだ。
  • 必死でテンプレのようなツンデレをしている由良ちゃんも悲しい。こんな初々しい、恋愛漫画みたいな頃があったのに。戻ってきた義朝がアレすぎて、あっという間に所帯じみていく未来が悲しい。いや、今のザ・良妻良母の由良御前もいいんだけど。しかしどうしてああなった。野生を高めすぎたんだ。

清盛と家盛

  • 前半の平清盛は、基本的に忠盛の圧倒的才気の描写で進んでいくので、その内の一つである宋貿易を、それらを理念込みで受け継いでいく清盛、と言う図は大河的に重要な画なのだろう。そこに、家盛が絡み始める。
  • 家盛は正妻である宗子の第一子で、清盛が忌み子として主だった平氏一門に疎まれているのと対照的に、保守的な期待を一心に受けている。本人は清盛を兄として慕っているし、一門の期待にも応えようと努力しているわけで。
  • そんな中で今回地味に挟まれた家盛の縁談の話が実に濃い。前回、清盛が身分の低い明子を嫁に迎えたエピソードもあり、一門の憂慮を肌身で感じている家盛は、自身も身分の低い娘と恋仲であるのに、それを押し殺して一門のために良家との縁談を受け入れる。縁談が最初に持ち上がった時は、悩んで返事を保留したけど、その間に清盛が頼長に目をつけられて平氏お取り潰しのピンチが訪れたのを見て、「やっぱり、兄貴のように奔放にしていてはまずい。一門の未来的に考えて」と結局縁談を受け入れるという。
  • そしてそれを見て複雑な顔をする母・宗子。家盛は一門のことを考えて決断し、宗子は息子が無理しているのを察して心配する。で、お互いの胸中に「清盛は好き放題にしたのになあ」と言う思いが訪れる流れ。後の軋轢の最初の第一手。よくもまあここまで丁寧にやるもんだ。

その他

  • 頼長と一緒にオウムも初登場。まさか後にあそこまで使い倒されるとは。ココデイッタコトハ、ナイミツニナ!
  • 兎丸は基本的に、強引な点に対してのツッコミ役なのね。今回は、スルーされてる平氏の不正に対するツッコミ。後々、清盛VS忠正の朝チュン剣戟へのツッコミ。最終的にどこにツッコむキャラになるのだろう。
  • 清盛VS頼長の、頼長の基本証拠物件のみで責めるネチネチぶりと、それらを盛大にぶち壊す清盛の開き直り。あれは酷かった。エリート頼長さんには、ある意味理解不能の生物だったに違いない。馬鹿には勝てぬ。
  • 璋子と鳥羽院の愛のSM劇場。今回は得子の計らいで、水仙の庭を全部菊に変えましたの回。
    • 璋子「無くなったら寂しく感じるものなのね」鳥羽「春に(得子の)子が生まれる頃には、水仙が咲いて綺麗だろうな」得子「嫌ですわ、全部菊に植え替えたじゃないですか」鳥羽「ああ、そう言えばそうだった」
    • 本当に鳥羽は。本当に鳥羽は。

次回、第九話「ふたりのはみ出し者」。現在絶好調の後白河天皇の初登場回。さあ、ライアーゲームの始まりじゃあ!